小田原にて

自然の詩 作品No3

小田原にて

ルート246を西へ

やがて停滞が解け
私はひらけた前方に夢を抱く

アクセルを軽く踏み込めば
昨日の喧噪も先ほどまでの悪夢も
みんなみんなガラスの破片のように
粉々になって
青い景色のなかに消えてなくなる

この解放をハンドルに託して
5月の風はひゅんひゅんと
車体を包むように
ひとりの男を笑わせてくれる


人生において一体なにが大切なのかね?
と私が問えば
さて、と微笑んで初夏の山々はこたえる


その瞬間瞬間のひとつひとつに
解答は潜んでいるし
たったいましがた過ぎていった
おばあさんの歩いている姿のなかにも
あなたはそれをみたハズだと


海に出たいと思えば
車体を南下させればよし

次の交差点を左折すれば
数十分のうちに確実に
到達できる私のいわば分かりやすい
到達点


しかしさて私は
ルート246を西へ


霞んだあのやまなみを
この眼で確かめようと
疲れたエンジンはしかし
乾いたリズムで
まだまだ力づよく
傾斜の傾きも難なく登っているので
私はこころを浮つかせながら
FMのスイッチを切り
まわりの色づきに耳を澄ます

その木々の息づかい
雲の流れる爽やかさ
山のにおいに
遠い記憶を呼び戻せば
ほう、とうなずいて
私は納得するのだが

なおさらのように
やはり私の疑問は深まるばかりのだ


人生山を登るが如し


気抜けたこのドライブを
私はどこまで続けるのか
とんと検討もつけていない


はてと
その初夏の風のなかに

ぼんやりとしたものを
みつけたような気がした

ああ
いま訪れた心地よい風は
この瞬間のなかに
包み込まれているのだな


生もまたいつも
このひとときのなかに
眠っているのだな


なんということか
海は近いというのに


やまなみは
やがて目の前に
立ちはだかって
さあ
峠を越えるのだが

まだ
その先は


遠く遠く続く