ワンナイト

強く生きる詩 作品No1

ワンナイト

幾万回の朝を、私はこの目で歩いてきた。

それはそれはいろいろあって、あなたに正確に伝えるすべを、
私はもたない。

覚えているだろ。

犬の遠吠えがその悲しみをあらわすとき、私たちはベッドではしゃいでいたね。

気の遠くなるような夜空を見上げたあの日、星空に刻々と朝はやってきた。

朝はいつでも静かに二人に訪れ、コーヒーを沸かすリズムは体を躍動へと変化させるのだが、私たちはそこからが眠りの時間だ。

人生の週末が近づくと、朝が恋しいという。何故だか知らぬが、人は生まれ変わると信じているのだろう。

たった一回の朝。人は一度消える。輪廻もあるらしいが、誰もそれを確認したものはいない。

夜明けのさわやかさは、きっと人の旅立ちにふさわしいからと、大昔から決まっていたのだな。

生まれて幾万回の朝を、私はこの目で歩いてきた。

夜を疾走した若者も、やがて朝を迎えることを知るべきだ。

一夜限りの生きた証を、やがて訪れる夜明けの気配で図ってみるのもいいだろう。

蝉より短い命。宇宙の波動に逆らえない法則。

そして人は振り返る。

私は私は、と涙を流す。

流浪でも思索でもいい。平凡も好ましい。

そんな一夜は、私の走り抜けた、語り尽くせないほどの想いを、静かに見守っていてくれるのだ。